にの、にの?

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とっぷぅあばうと小説あり□ 同人誤字脱字案内メール

オリジナル作品

夢うつつ

「文体の破壊」を表現コンセプトとして、表現テーマを「夢と現実の混同」にした本作。
どうやらいろいろやりすぎたようです。
2011年作品

なお、本作はデジタル端末で読みやすく加工したePUB版があります。
詳しくは同人ページまで

連載

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 3.0 非移植 ライセンスの下に提供されています。

飛び起きると、ひどく汗をかいていた。体中が、特に首元がべとついて嫌だったけれども、それどころではない。頭の中にあるのはただ一人のブタ。北部地域を侵して人々を混乱させる、悪魔たちを束ねる存在。深くしわの刻まれた、人を嫌にさせる臭いがするソイツ、領主森田。

久しぶりに台所に立って、久しぶりに棚を開ける。湿った臭いがブワッとあふれ出てきたけれども、森田臭ほど嫌ではなかった。取り出すのは棚の扉に取りつけてある包丁入れから。いくらかさびが浮かんでいるけれども、別に問題はなし。指先をちょっと切ってみればちゃんと痛くて、出てくるのは血。いつも使っている細い剣ではないから何だかしっくりこないけれども、まあ、森田を倒せるなら十分。

前までは後ろの専用口から出入りしていたものだから、正面の電動ドアから入るなんて新鮮な感覚。客を知らせるチャイムがうるさい中、相変わらず客はいなくて、というか店員もいない。ミーミャンがいてもおかしくないのに、どこに行ったのだろう?

いらっしゃいませえ、という声。背中の毛が逆立つような。それから、次の瞬間、文房具コーナーの棚のところからひょいと現れる顔。森田。しわと脂肪にまみれた髪の毛の弱い顔。鉄格子には明かりが少なくて細かくは見られなかったけれども、その顔と同じ形。

手の武器に力が入って、次の瞬間には突撃。先手必勝、コンビニで武器を持っているアイツは見たことがない! ヤツはここでは言葉で攻撃してきたが、それだけ。そのときは森田が領主だなんて悪魔に魂を売った悪しき領主だなんて知らなかったし、どうでもよかったけれども、今は違う。言葉でしかオレを攻撃できない森田は無防備。

オレが走って、どんどん大きくなる領主の姿。襲われることを予想していなかったのか、目を大きく開いて今にもこぼれ落ちそう。二つのてのひらをオレに向けて小刻みに振りまくっている。あんたはどうして手を振る? 怖いのか? そんなにオレがこわいのか?

ソイツの『手を振る攻撃』なんて全くの意味なし。走ってきた勢いのまま森田に体当たりをみまって、するとよろけた森田がドリンクコーナーのガラス戸に。森田の頭上に落ちてくるガラス片とペットボトルの雪崩。ガラスが刺さって顔面血まみれ大ダメージ。

悪魔と契約しても、領主自体は意外に弱いものなのか。ただ体当たりされて、ガラスにペットボトルの三連鎖だけでもう弱っている。やめてくれ、やめてくれ、と威厳の欠片もない言葉もまた弱い調子で。やめるわけねえだろ。オレは包丁を大きく掲げて― 

胸を一撃。それから何度も、胸、胸、胸、胸、胸、胸、胸、胸。きれいな赤色が刺し跡から湧き出してきた。できるだけの罵声を浴びせてやった。お前のせいでどれだけ人々が惑わされたか、お前の利己心のせいでたくさんの人が苦しめられた、人が争いをおこす火種をつくった!

息継ぎせずにののしって刺しまくって。体がクラッとして思わず手を止めてしまった。一度体勢を立て直すためにまっすぐ立ちあがって、領主を見下ろす。もう動いていないし、胸のあたりはぐっちゃぐちゃ。骨が見えている。これぐらい攻撃しておけば復活することもないだろう。オレの任務はここで終わり、やった、ついに倒した。

さて帰ろうと思って振り返ればミーミャンがブルブル震えていた。床には水たまりができていて、ジーンズが縦一線にぬれていた。一体どうしたのだろう? どうしたのミーミャン、と優しく声をかけながら一歩足を進めるだけで、彼女は悲鳴を上げて後ずさりしようとして、けれども足を滑らせて尻もち。

「どうしてそんなに震えてるんだよ、ミー」

「こないで、人殺し」

「何を言ってるんだよ、北部の情勢調査と、それとできるんだったら原因を排除する、それがオレらの仕事だったじゃないか」

「ナニ言ってるかわけ分からない! でたらめ! どうして、オーナーを殺すなんて」

「それはオレのセリフ。北の情勢を怪しくしてた張本人を倒せたんだから、もっと喜びなよ。おびえてるなんて変」

なぜだかおびえきっているミーミャンを抱きしめてあげようと近づいたそのとき、見知らぬ誰かに攻撃されて、押さえつけられて、身動きが取れなくなってしまったのだった。

それから何日か経っているけれども、元の世界に戻れない。ちゃんと戻って任務終了の報告をしたいのに。それからミーミャンと一緒に報酬で遊びたいのに。なのに毎日スーツを装備したおじさんに狭い部屋で責めたてられて、かと思えば灰色一色の狭い牢屋に―また鉄格子だ―閉じ込められて。どうして任務を達成できたのに、こんな仕打ちを受けなければならないのだろう?

にしても、どうしてミーミャンはあんなにおびえていたのだろう? そんなに怖かっただろうか? 

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