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にの、にの?

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とっぷぅあばうと小説あり□ 同人誤字脱字案内メール

二次創作

身の回りが、エライコッチャ

前回なんてなかった。

ばとねアンソロのお話第2弾。
「ばとねのかたまり2」所収。
リミュレたちの話ではなく、理恵や鈴藤由姉妹のほうのお話。

2011年作品

原著作者情報

原著作者=木下英一
ばとね!

連載

●前回までのおさらい●

前回なんてなかった。

可憐なる花が咲き誇っていても、やはり曇天ではその薄紅色は美しくなくて、花びらの全てが全てくすんで見えたのは理恵だけではなかったろう。けれどもだれもが満面の笑みで、クラスメイトの彩智や沙耶に至っては一緒に肩を抱き合ってわんわん泣いていた。桜の花が映えていない分を取り返すかのようなにぎやかさが、卒業式終わりの校庭には満ちていた。

理恵は表向きには猫耳カチューシャをかぶってクラスメートとの卒業を喜んではいたけれども、内心は複雑な心境でいた。友達と過ごした思い出の数々があるこの場所を離れてしまうことに後ろめたさと辛さを感じていたのである。友達は自分たちと同じラインを歩くことはこの先もずっとない、考えても仕方がないこと、どうしようもないことなのに、心の隅っこをちょんちょんと針で刺激するのだった。

理恵がクラスメートたちの姿を見回したところ、見慣れた目と視線が重なった。すると相手は隣にいるベージュのスカートスーツと二つ三つ言葉を交わして、そうしてから理恵のもとへと小走りで迫ってきた。この笑顔で満ち溢れた校庭の中でただ一人、笑みを表に出していない美由紀だった。そう、理恵以上に美由紀は友達のことを引きずっているのは間違いない。美由紀の方が友達としての付き合いは長かったし、なにより、急に突きつけられた現実はむごかったから。

美由紀はそばに立ち止まると、ますます暗い表情になって、さながら受験に失敗した子のような有様だった。理恵にはその暗い目や力のない口元がなにを意味しているのか手に取るように分かったし、言葉をかけてあげなければならないことも分かっていた。

けれども言葉は全然口から出てこなくて、美由紀の目を見据えることしかできなかった。頭は言葉を求めているのに、口は動かないし、辞書も必要な言葉を頭に与えなかった。

どうしよう、わたし、卒業しちゃった。

美由紀はそれ以上の言葉を口にしなかった――口にできなかったとするのが正しいか。肩にさげたバッグをぎゅうっと胸のところで抱きしめて、これ以上曲げられないぐらい頭を垂れていて、力なくというよりも強張っている様子だった。周りの喜びに満ちた音をかたくなに受け入れまいとする、美由紀らしからぬ強情な態度に感じられた。

理恵は両手を美由紀の肩に置いた。すっかり固まった体を前後に揺すって、カチコチになっている心をほぐそうとした。みゆは卒業していいんだよ、みんな卒業するんだよ。それでも美由紀の心がほぐれる様子はなくて、一向に下を向いたままだった。可憐だって一緒に卒業するんだよ、置いてけぼりになんてならないんだよ。すると急にタガが外れたように声をあげてわあわあ泣き出してしまった。

すっと理恵の手を抜けて、美由紀の肩が地面近くまで落ちた。理恵の脚元にしゃがみ込んで、身体を小さく縮こまらせていた。バッグまで巻き込んでぐしゃぐしゃになっていた。理恵もその後を追ってしゃがみこんで肩をとらえなおすも、立っていたときよりもずっとかたくなで、揺すってもびくともしなかった。

力をこめる手に別の手が重ねられて、急に理恵と美由紀だけの世界から引きずり出された。顔をあげると、美由紀の周りを知っている顔が囲っていた。真里香に、テイルに、スウイ。膝をまっすぐにのばしていながらも、ぐいっと腰を曲げて、さながらひさしのようだった。特にテイルとスウイの鈴藤由姉妹はウサ耳のカチューシャをはめているから、ひさしというよりも屋根だった。

「可憐の家のとこ、行こう」

可憐は、美由紀の親友だった。美由紀だけじゃない、理恵にとっても、真里香、鈴藤由姉妹にとっても、である。どんなときでも可憐は真ん中にいた。本人にはそのつもりは一切なかったけれども、仕切ろうともしていなかったけれども、終わってみれば大体のことが可憐中心で動いていた。わがまま、というわけではなくて、まとめていくのが上手だった。

けれども、それは一年の終わりまでだった。可憐は、町のはずれにある洞窟の崩落に巻き込まれて、『行方不明』になった。美由紀はそう考えようとしていたし、理恵たちも全く同じだった。幸いなことに、遺体が見つかっていないことから葬式はされなかったから、まだ生きているという希望を持ちながら遺影と向き合うことはなかった。けれども、こともあろうか全校集会では黙とうをささげるという話になってしまって、そのときには頑として黙とうはささげなかった。『死んでいない』人に対して黙とうをささげてなるものか、この瞬間ほど学校が嫌いになったときはなかった。恨めしい学校からいなくなってしまいたかったけれども、ただひとつ、可憐と一緒にいた思い出が美由紀と学校をつなぎとめていた。

それが今日、切れた。

||ススム>>