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問:どうしてこうなった?
答:分からない。
ばとねアンソロのお話があってその勢いで書いてしまった作品。
「ばとねのかたまり」所収。
リミュレとカレンの相変わらずフルボッコなお話。たぶん二人のタッグはシレイム並みだと思う。
2011年作品
原著作者=木下英一
ばとね!
●前回までのエライコッチャ●
どういうわけだか数人に自分の正体がばれていることが発覚。そしてウサ耳カチューシャをつけた先輩に毎日のようにボディチェックをされて大変な登校。つまり、毎日がエライコッチャ。
リッツとして学校に入って数か月がたったのだけれど、やっぱり休日ほど気を休められる日はない。毎日のように先輩が体を触りに来るし、始終桜さんの視線が生温かくて生温かくて。別に桜さんがいることが悪いことではないけれども、身内が担任であるのはどうも気まずい。私が知ってる普段の桜さんと教師としての桜さんの口調が全然同じじゃないのもまた調子が狂う。どうも慣れない。どっちが本当の桜さんなのかが分からなくなっている。というのも、メイドさんとして家にいるにもかかわらず、私たちにおつかいを頼んだ時の口調が完全に教師になっていたから。リミュレが無邪気に「ヘンな口調だね」と口にして赤面していたのが新鮮だった。
頼まれたものは野菜がいくつか。リミュレだけでも十分こと足りるけれども、私もちょうど布を買いにいきたかったのでついてきたのだった。桜さんから『新しいメイド服を決めたいからなにか作ってください』と頼まれたから、その買い出し。リミュレに着たい服を尋ねてみれば、緑色がいい、という答え。どうもセロリ色だからという理由らしく、その理由はどうかと思うけれど、緑色はそれほど悪くない。
私たちはまず野菜を買うため、魚八に立ち寄った。いつも通りいかついあごの親父さんが軒下で仁王立ちして腕を組んでいた。並べられている野菜にはなんの異変もない。ただ、一か所だけなにもない空間があった。
「お、リミュレちゃんいらっしゃい」
「こんにちわー。ええと、トマト四つと、ナス五つと、セロリ五つと、えーっと、アスパラ四本ください」
「ごめんねリミュレちゃん。セロリ全部ないんだ」
「どうしたの? いつも余ってるよね」
「いやーそれがね、ウサ耳をつけた女の子がもっていっちゃったんだよね」
それ万引きじゃ、と思ったものの、親父さんは平然としているところ、あまり気にしてはいないらしい。ニコニコしてリミュレと話していた。
「見た感じリミュレちゃんの知り合いじゃないかなって思うんだけど、どうなのかな」
「たぶんリミュレが知ってる人だと思うよ」
「じゃあ、話しして返すかお金出してくれるように言ってくれるかな?」
「うん、分かった!」
「じゃあ、その隣の人は」
「リッツです。リミュレの友人です」
「そうかい、リッツちゃんもよろしく頼むぞ」
どうもこの町の人々はよく知らない種族に寛容である。
どういうわけだか、花先輩までもついてきていた。どうやら二階の窓から一部始終を見ていたらしく、アーちゃん探しにでようとした矢先に飛び降りてきたのだった。なんかおもしろそーだから一緒に行くぜ、なんて張りきって登山用のリュックサックをしょっていた。
「で、花先輩、その中にはなにが入ってるんですか?」
「すこんぶとパセリだぜ。どっちも今朝仕入れたての新鮮ピチピチさ」
「その二つだけでそんなにぱっつぱつなのは」
「おっと、それは聞いちゃいけないぜ! ちゃんとセロリもつぶれないようにしてるぞ」
「いや、そこは聞いてないです」
花先輩だけ異様にテンションが高い。私たちの数メートル先を意気揚揚に歩いている。まるで遠足を楽しんでいる小学校低学年生のような感じ。自分の親の店で万引きした張本人を探すとは自覚してないみたいだった。でも一方リミュレはすっかり沈みきった顔色で、私の後ろをとぼとぼついてきていた。
「カレン、アーちゃんは物を勝手にもってくような子じゃないよ」
「その名前では呼ばないで。そこは私も引っかかってるところ。そもそも万引きできるような性格じゃないし。いつもオドオドだもの」
「きっと悪いのは犯人だよね。アーちゃんは悪くない」
「まあ、アーちゃんの性格だから少しでも脅されたら絶対従っちゃいそうだし」
「アーちゃんの弱みにつけこむなんてひどいよ。リミュレ、絶対に犯人をこらしめる!」
するとリミュレが私の横を突然駆け抜けて、先輩の横についた。先輩が行き先を尋ねる声の後に、リミュレが道の遠くを指さした。それからいきなり、よーし行くぞー、なんて大声を上げてこぶしを突き上げていて。リミュレも一緒になって同じことをしているところ、やはり似ているというか。たぶんリミュレから怪力を引いたら先輩になるに違いない。